スマートフォンで実験室レベルのHIVや梅毒の検査ができるアクセサリーが登場
スマートフォンで簡単に病気の検査ができる時代になりました。
※この論文の翻訳・執筆したkinakoは、生物系の大学卒業後、現在企業で疾患の研究を行っています。理解しにくいと思われる生理学、生物学用語については文末に解説を付けました。
スマホに接続してHIV・梅毒検査が可能
米国コロンビア大学の研究チームが、スマートフォンにオーディオ端子を介して接続することでHIV※1と梅毒※2の検査ができるアクセサリを開発しました。
この研究はアフリカのような設備的に貧しい地域で、電気等のリソースが制限された状態でも検査が可能にするための研究です。
その中で開発されたこの機器は、ごく少量の血液を使用し、梅毒とHIVの感染の有無を検査するもので、スマートフォンのオーディオ端子からの給電とデータ転送により動作し、別電源を必要としません。
測定は実験室でスクリーニングとして行う試験であるELISA法※3と同等の結果が得られ、フィールド試験でのHIV検査の感度※4が100%、特異度が87%でした(梅毒についても高い感度と特異度が得られています)。
使い方
指に針を刺し、ごく少量(1マイクロリットル:1mLの1000分の1)の血液を採取し、10倍に希釈して、そこから2マイクロリットル(一滴程度)をカセットに分取します。
抗体※5ホルダーに血液を入れたカセットをセットして、機器本体に挿入。
機器本体のボタンを押して負圧にし、アプリの「測定開始」を押すと開始され、15分ほどで完了です。※6
利点
この研究にはどのような意味があるのでしょうか。
低侵襲(負担が少ない)検査
通常、病気の検査には静脈からの採血を行うため、かなりの苦痛を伴います。しかし、本法では指からごく少量を採れば良いため、患者に負担をかけません(糖尿病で自宅で血糖値を測られている方は、あのくらいを想像してください)。
また、少量で複数の疾患(と、複数の基準)に対する検査ができます。さらに、簡便な操作ですぐに結果がでるため、待ち時間も少なく、不安に思う時間も短縮されるでしょう。これはとても重要なことで、苦痛が少なく簡単であるほど患者は検査を受けやすくなります。
実際、フィールド試験はアフリカのルワンダで行われましたが、試験に参加した患者からも従来法より楽という評価を受けました。
省電力、小型軽量でフィールド試験にぴったり
本法を用いる場合、電力はスマホから供給されます。AppleのiPod touch(第4世代)を使用した場合、41回分測定できるほどの省電力に成功しています。医者はスマホとこの機器だけ持てばよく、どこでも試験ができます。実験室で使う大型の装置が必要ないので、持ち運びも容易です。
どこでも試験できるということで、今まではHIVや梅毒の検査が出来なかった村まで出向いての試験も可能で、従来は病院まで出向けなかった人も検査ができるでしょう。
試験対象が大幅に広がり、公衆衛生の改善に寄与できます。
低価格
梅毒やHIV検査のスクリーニングに通常用いられるELISA法の場合、高価なマイクロプレートリーダーが必要(100万円以上)ですが、この機器の製造コストは34ドルです。今まで装置を導入できなかった病院にも導入の可能性が広がり、検査を受けられる人が大幅に増えるでしょう。
簡単操作
従来法のELISAの場合、8連ピペットやマイクロプレート、プレートリーダーといった機器類の使い方を覚える必要がありますし、血液を扱うため感染への細心の注意が必要でした。
しかし本法であれば、測定は試薬と極微量の血液を乗せたカセットを挿入し、ボタンを押すだけの簡単操作です。少しの練習で扱えるため、取り扱える人員を増やすことも容易でしょう。
まだまだ発展途上だが、将来に期待
この研究では梅毒とHIVに絞っていますが、原理的には多くの感染症や疾患に応用できるものです。
アフリカだけでなく、日本でも十分な設備が整っていない離島の病院等でも十分に活躍の機会があると思われます。
動画では血液をそのままカセットに吸わせていますが、論文では希釈操作がありました。動画はあくまでもイメージで、そのくらい簡単な操作にしたいということでしょうか。
病気の診断に使える方法は法律や法令で決められているため、今はまだ病気の診断にまだ用いることはできませんが、さらに研究が進めば世界中どこでも重篤な感染症の診断が可能になるでしょう。もちろん、感染症だけでなく、がんやその他の生活習慣病の診断も可能になるかもしれません。早期診断が可能になれば色々な選択肢が生まれます。研究の進展に期待したいところです。
用語解説
AIDS(後天性ヒト免疫不全症候群)の原因ウイルス。妊娠時、子どもに伝染する。治療はカクテル療法と呼ばれ、複数の薬を組み合わせて摂取する。現在完治する方法がない。
スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)により引き起こされる性感染症。妊娠時、子どもに伝染する。治療は抗生物質による。本記事では省略したが、この研究では梅毒診断に用いられるSTS法(梅毒非特異的)とTPHA法(梅毒特異的だが感染歴でも陽性反応が出る)両方の検査が可能。
抗原抗体反応を利用した定量方法。マイクロプレート上で、酵素標識した抗体を用いて定量する。
感度は、陽性の人を正しく陽性と判断する割合。特異度は陰性の人を正しく陰性と判断する割合。
スクリーニング試験の場合、できるだけ見逃さないように、特異度が低くても感度を高めるように設定をするため、当研究でも感度を高く設定している。
免疫によって産生されるタンパク質。生体内で異物を認識して、結合して不活性化する。生化学の分野ではこれを利用し、特定の物質の特異的な採取や定量、定性のために利用される。
ボタン押下により生じた負圧により引き込まれた血液中の抗原(HIVと梅毒)がチップ上を通過する。チップ上には各抗原に対応する抗体(もしくは標的と特異的に結合する物質)が結合しており、抗原抗体反応で抗原が保持される。その後遅れてやってきた金標識抗体がチップに保持された抗原との抗原抗体反応を起こし、金標識抗体がチップ上に保持され、銀により吸光度が増大する。血中に抗原が存在すれば発色するため、LEDにより光を照射して吸光度の違いによって測定を行う。
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